- 作者: イェージーヴァルドルフ,足達和子
- 出版社/メーカー: 音楽之友社
- 発売日: 1998/12/10
- メディア: 単行本
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...コンチェルトホ短調を弾いた時など、フレデリック*1本人が陽の光輝く音の道、希望に燃ゆる光の中を世界征服へとまっしぐらに突き進んで行くかに思われた。
これは何かというと、第9回のショパンコンクール優勝者のクリスティアン・ツィメルマン、若かりし頃のマスターについての形容なんであります。
申し訳ないけれど、最初これをAさんに紹介いただいた時、吹き出してしまいました。
いや、だってあまりにあんまりではありませんか。しかしまあこの一文だけでどうこういうのもあれだろう、と、一体どういう本なのよ、ということで購入してみました。
この本は、まず序章として60頁ほどがショパンその人の生涯について書かれており、ついで、第1回から第11回までのコンクールについてがそれぞれ章立てして書かれています。
この本の筆者は、第一回のショパンコンクール(1927年開催!)からずっと聴いてたというお方。
第一回のショパンコンクール当時、16才の、ポズナニ音楽院高等科生徒だったヴァルドルフ氏は、その後、第3回のショパンコンクールの頃には、新進音楽評論家としてのキャリアをスタートさせており、第二時世界大戦中はドイツ占領下のワルシャワにあって、ショパンの地下コンサートを組織、戦後すぐにはポーランド放送仮社屋で音楽活動を再開(ちなみにその時の同僚で一緒にピアノの下で寝起きしていたのがウワディスワフ・シュピルマン、かの"戦場のピアニスト"氏である)1955年からは16年に渡って、ショパン・コンクールの報道番組を担当した、ショパンコンクールの熱狂も駆け引きも、裏も表も知り尽くしたといっても過言ではないだろう、ツワモノ中のツワモノなのであります。
読んでみると、参加者であるピアニストたち、、審査員たち、そして迎え、心待ちにするポーランドの人々の様子、筆者が直接見聞きしてきたショパンコンクールの様子が当時の熱気や興奮そのままに伝わってくる、とてもおもしろい歴史読みものでした。歴史、というそれだけでなく、コンクールとピアニストというものに対する感慨深いコメントが随所にあり、そこがまたおもしろく読めました。
ちなみに、ショパンで世界征服は言い過ぎだろうと思っていた私ですが、某巨大動画アップロードサイトで、見た若い頃の(多分20代前半、下手したら10代の)マスターが弾くショパンのピアノコンチェルトの動画を見て、納得してしまいました。なるほどこれじゃあ、ショパンで世界征服だわ。