るるむく日記

趣味にひた走るつれづれの日々

翻訳の彼方に幸いは果たして住まうのか?






さて、作者サイトのArticles and Speechesにちょっとおもしろい記事が載っていました。On being translatedという「翻訳」に関するエッセイです。
作者サイド、つまり翻訳される側からの「翻訳」に関するあれこれで、うーん、おもしろいというか手厳しいというか。当然の事ながら翻訳はある作品をオリジナルから別の言語に移し替える作業で、その作業過程が入る以上、また言語が異なる以上、オリジナルと完全に一致する翻訳版を作ることは不可能です。翻訳者の方達は原作に可能な限り寄り添いつつ、目的言語の作品として構成していくものですから、その過程で切り捨てられる部分と付け加えられる部分とが必ず出てくる訳です。その折り合いを作者がどう評価するか、どう心配するかというあたりが見えておもしろい記事でした。
ちょっと意外だったのが、米版をTranslateの中に入れてあったこと。アメリカ向けに単語や慣用句の言い換えをされているから、ということのようで、例えば"shopping-trolley" を "grocery cart" に。"footpath"を"sidewalk"にと直しが入ったらしいのですが、作者的にはオーストラリアには"sidewalk"はないんだ! "footpath"なんだ!と同じ英語とはいっても(なまじ同じ言語圏と感じているだけに??)悩む所はあるようです。もっとも米版は作者に聞いてくれるからまだ良いけれど、その他の言語は....という話に続き、日本語版にいたっては、頁の開きも逆なら、文の流れも全然違って(左開き、左から右へ横書きが、右開き、右から左へ縦書きへの変更ですから確かに全然違う! という印象でしょう)ちゃんと訳されてるの? 大丈夫?という気持ちになったご様子です。
最も、テキストとしてはまったく豪版と同じ英版でさえ、裏表紙の「あらすじ」に使われた単語にそれはどうかという単語が使われてしまったそうで、原版から変えるということはさまざまな問題をはらんでいるのですね。
ちょうど

翻訳家の仕事 (岩波新書)

翻訳家の仕事 (岩波新書)

こちらを読んだばかりの事もあり、とてもおもしろかったです。(この翻訳家の仕事はとてもおもしろかったです。岩波で出している雑誌「図書」に連載された「だから翻訳はおもしろい」をまとめて本にしたもので、37名の訳者の方々が書かれた翻訳エッセイです。
この手の本では
翻訳夜話 (文春新書)

翻訳夜話 (文春新書)

翻訳夜話2 サリンジャー戦記 (文春新書)

翻訳夜話2 サリンジャー戦記 (文春新書)

がものすごくおもしろくてオススメ。)