るるむく日記

趣味にひた走るつれづれの日々

3ドル感想


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やっと観ました。派手な所のない地味な映画でしたが、しみじみとしたいい映画でした。

この映画は、Eddie Harnoveyという個人についての物語です。

"THREE DOLLARS is the story of a good man in tough times and his resilience in the face of the world's attempts to break him."

というのが公式サイトにありますが、映画は困難な時そのものだけを描くのではなく、この困難な時もエディの人生の中の一部分でしかない、そこをたまたま覗いている、というように描かれているように感じられました。


時系列がエディの子供時代、大学時代、結婚するころ、現在と4種類(9年半ごとのアマンダとの出会いの時期)が混在する上に、「現在」の中でもフラッシュバック構成が入るので、このシークエンスはいつのもの? で、どことつながってるの?、あれあれあれ? と最初は戸惑いましたが、観ている内にだんだんなじんできて、一つ一つの台詞、一つ一つの場面が、積み重なっていって、最後のシーンにつながるという印象を持ちました。
それこそ冒頭のエディの荷物から吹き飛ばされる書類のように、エディのこれまでの人生がばらけてシャッフルされたものが、ざざっと拾い上げられ、まとめられて、ぽんと机に置かれたものを読み解いていくような映画とでも言ったらよいでしょうか。




以下ネタバレ感想



私はもっとアマンダが実在の女性として現在のエディの生活にかかわってくる話なのかと思ったのですが、そうではなくて、アマンダは現実のエディの生活の節目ごとに表れるものの、深い人間関係の一人として関わるのではない、もっとエディにとって象徴的存在である、という感じに見えました。
現実のエディと、タニヤとアビーの家族の絆はきちんとしていて、外部からの不安要素は多々ありますが、家族としての土台はきちんとしていますから、危なそうでいてどこか安定感がある、いかにも長くつきあってきて、結婚して、子供がいてという延長上にある家族に見えました。


仕事上の問題、妥協、漠然とした、経年による変化への不安(年老いて病んでいる親、昔通った店の店主の死)パートナーの失業と子供の病気、そして自らの失業による決定的な経済的破綻、と「なんで悪い事ばっかり続くんだろう」と呟きたくなるようなエディの試練ですが、そういった一種の「嵐」の中にあっても、彼はスタンスを変えることはできないし、ただ嵐に翻弄されるように見えるエディはとても痛々しく見えます。
およそファンタジーとぎりぎりなくらいのエディの「善い人」っぷりと、「世間」とのずれは嵐の中では余計に際だってしまうように感じられました。
エディたちの家庭の経済的苦難へのはっきりした救済の道は映画では示されないのですが、それでも映画の画面の明るさとエディの表情、丁寧にかかれてきたエディの家族のあり方と、これまでのエディの生き方のスタンスが、先行きの不安を感じさせない。大丈夫、自分たちはちゃんとまた立ち上がって歩いていけるというように伝わってきて、終わりは静かで明るいものでした。



今ひとつストーリーを把握しきれていないせいかもしれませんが、ストーリーがなんといったらいいか、こういうシチュエーションってありかなあ〜? ちょっとファンタジーぎりぎり、という感じなのに、俳優さん達のリアリティのある演技でこういうのもありか、と魅せられてしまうというか、な印象を受けました。


いろいろと身につまされる部分も多々あり、オーストラリアの人たちにとっては、さらに自分の境遇について、懐かしさと実際の現実とがよりいっそう身近な分、より揺さぶられる映画になるのかもしれません。


いつものこと、とはいえ、台詞がきちんと聞こえないのがとてももどかしくて、速攻でscreenplayを読みにいきました。

(またこのscreenplayが読みにくい!:screenplayをお読みになると分かるのですが、このスクリプトは最終的な撮影時のスクリプトなんですが、実際の映画、編集後のものはかなり手が入っていることが分かるような記述になっています。
scean 1からscean208までのスクリプトですが、実際の映画でははscean1,2,3はカットで、4から始まって、scean7は194の後ろに回って、8,10,11があわさって4になってるんですよ、というような事が分かるようになっています。そしてカット分は薄いグレー、実際に使われた分は黒で印字することで、そのsceanの中でのもともとのスクリプトの台詞と、実際にフィルムに残った分の台詞がわかるようになっています。カット分まで読むと背景が大分分かりやすくなりましたが、普通のscreenplay(といっても私はそんなにたくさん読んだ事はありませんが)に比べて読みにくい印象でした。おもしろかったですが。)

なんとか一回目鑑賞終了ですが、これからもう一回見て、原作読んで、もう一回みて、それから監督のコメンタリ聞いて、原作者のコメンタリ聞いて、creative teamのコメンタリ聞いて・・あと何回観ることになるんだ?
でも多分観れば観るほどしみてくる映画なんじゃないかと思います。




ちょっとしたネタバレ含みのツッコミ&素朴な疑問


その1:DW的にはもはやお約束なのか、シャワーシーン(短いけど)・トイレシーン・泣き出す寸前顔あり。この人の泣きっ面は本当になんというかなんというか。

その2:思ったよりベッド・シーンがあった。といってもそんなにものすごくエッチなシーンという訳ではないのですが、いわゆるハリウッド映画とかのラブシーンというのと違って、普通のカップルのそれ、という雰囲気だったので微妙な気恥ずかしさが。そしていくつかあるその中で一カ所ものすごくキュートかつ色っぽいシーンがあったのでおお! とちょっと見直しました(私は本当にDWのファンなんだろうか・・・)

その3:オーストラリアには失業保険とか雇用 保険とかはないの?
いきなり残高が3ドルで困窮しちゃうのでええー? と。タニアさんは大学の教員で(多分)一年契約とかなんだろうからあれはありだと思うけどエディは常勤っぽいのに、いきなりレイオフ、いきなり困窮ってありなの? という謎。このへんオーストラリアにお詳しい方に伺いたいです(^^;)

その4:エディの大学卒業86年という事のようですが、そうなると大学生活を83−86年に送ることになるのですが、イメージとしてはもうちょっと前の印象を持ちました。79−82くらいの大学生活の雰囲気というか。ハムレットのエピソードとかイアン・カーティスのイメージとかからするとそんな感じなんだけど・・・どんなものでしょう。



特典に関しては次項で。