るるむく日記

趣味にひた走るつれづれの日々

時間のない国で*1

時間のない国で 上 (創元ブックランド)

時間のない国で 上 (創元ブックランド)

時間のない国で 下 (創元ブックランド)

時間のない国で 下 (創元ブックランド)

The New Policeman (The New Policeman Trilogy)

The New Policeman (The New Policeman Trilogy)

アマゾンでまだ書影が出てこないので、ペーパーバックの方も。邦訳も表紙は一緒です。(ペーパーバックの表表紙を上巻の表紙に、裏表紙を下巻の表紙に使ってあります。)



2005年のカーネギー賞ウィットブレッド賞児童書部門受賞、ビスト最優秀児童図書賞受賞作品。



本を読んでいるあいだずっと、本の中から音楽とリズムがくるくると湧き出てくるような、とてもステキな話でした。



舞台はアイルランド、キンヴァラの街。主人公は15才の少年JJ。最近やたらと「時間」が過ぎるのが早くて、と嘆く母のために、誕生日に「時間」をプレゼントしようとした彼は、近所に住むアンの導きで、別の世界へ入り込みます。そこは常若の国、ティル・ナ・ノグ。ところがその時のない筈の国では「時間」が存在するようになっていました。時間流出の謎を解きに、ティル・ナ・ノグのアンガスと共に動くJJ。一方、キンヴァラの街には新しい警察官がきて...

というあらすじに惹かれて読み始めたのですが、すごくひっぱられて、わくわくしながら読みました。主人公のJJはは音楽一家のリディ家の生まれで、フィドルがすごくうまくて、ダンスもすごくうまくてという子です。お母さんはコルサンティーナを演奏する人で、お父さんは詩人。妹もお兄ちゃんの後を追うようにしてダンスと音楽に才能を見せてます。JJのひいお祖父さんはフルート吹き&フルート作りだったのですが、70年前の神父さんの失踪に関して、彼が神父を殺したのでは? と噂されていてます。ひいお祖父さんは本当に神父さんを殺したの? とかお母さんのお父さんの謎とか、新しくきたおまわりさんがすっごくハンサムでフィドルが上手でダンスも上手なんだけど、なんだかひょっとして....? とか、先を早く読みたいようなゆっくり読みたいような不思議な気持ちで読み進みました。6部構成で、そのそれぞれのパートが短い章だてされていてその章ごとに、章のテーマに似合った、アイルランドの伝統音楽の楽譜がついているので、あああああ、この音楽を聴きながら読みたいよう、と身もだえしてしまいました。この楽譜を演奏した本用のCDが欲しいところです。



途中、JJとアンガスのティル・ナ・ノグでの時間流入探索の話と、こちら側の世界でのJJがいなくなってしまった! 話とが交互になって進むのですが、ちゃんとJJはこちら側に帰って来ることができるのかしら(時間軸がちゃんと間に合ううちに)、とどきどきでした。時間流入の謎はそこかー!!で、あまりきったはったの大立ち回りはなかったのですが、特に物足りない印象はなく、そもそも「あっちの世界」と「こっちの世界」の行き来、というだけでドラマだなあ、と再認識しました。「裂け目」からの行き来ということで、「フェネラ」

フェネラ (秋田文庫)

フェネラ (秋田文庫)

を思い出しました。あれはあちら側からこちら側へやってきていましたけれど、エントロピー的には裂け目があったらこっちからあっちへ流れるという方が自然かも。



ティル・ナ・ノグの、ただ美しいだけではない世界も、そこに暮らす「彼ら」とこちら側の人間の差違も、向こうの世界に魅せられて戻れない人たちも、全て含めたあちら側とこちら側の世界のありようが、どっと押し寄せてきて、読み終わってみれば、JJのごとくぼうっとしてしまうような読後感 でした。



この本は作者ご自身が音楽活動をされていることもあってか、読んでいるそばから音楽やダンスのステップが聞こえてくる、あちらの世界とこちらの世界とで響きあう音楽の調べの美しさが聞こえてくる物語で、ケルト音楽、ケルトの民話ががお好きならきっとお気に入りの本になるのではないかと思います。





作者のサイトで、作者本人が一部朗読(第3部の第5章)しているものと、音楽の演奏を少し聴くことができます。

http://www.katethompson.info/childrens_books.asp?id=7

個人的には、去年の11月にリバーダンスを観た事が、この本を読むにあたり、効果倍増、という感じだったので、もしDVDなど観られるような環境ならぜひ、鑑賞をおすすめします。